2023年11月3日、ゴジラシリーズ37作目にあたる『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』が公開されました。
この作品は戦争や核など、さまざまな解釈があるかと思いますが、私は「破壊衝動」「闘争本能」といったゴジラのもつ破壊の美の面から感想を書かせて頂きます。
※一部ネタバレにつながる表現があります。
化け物としてのゴジラを見事に描いてくれた
ゴジラについては、世代によってさまざまなイメージがあるかと思う。核の申し子であったり、ヒーローだったり、モンスターであったり、魚食ってるイグアナであったり。
だけど、この怪獣の根底にある魅力は、善悪などではなく、人知を超えた恐ろしい「化け物」であり、ただ破壊を繰り返すその姿なのかと思っている。
以前、「ゴジラ」とは何なのか、なぜ人はこの怪獣に惹かれるのかでも書いたが、人の感情の根底には破壊衝動のようなものがあるのではないかと思っている。どんなに善良な人であっても。
人知を超えた存在が、街を壊し、人を焼き、築き上げたもの容赦なく一瞬で消し去っていく。人はただそれを見ているだけ。なにもできない。そして観客の私たちは、それをスクリーン越しにもう1歩背後からみて、唖然とする。
唖然とはするが、けれど「悲しい」「かわいそう」と思いつつ、心のどこかに「すごい」「すさまじい」という興奮するような感情もあったのではないだろうか。
それこそが破壊衝動のようなもので、ゴジラはそうした心の中に眠る破壊衝動、闘争本能のようなものを呼び起こすような存在なのだと、私はずっと思っている。
そして、今回の『ゴジラ-1.0』。この作品は、ゴジラのもつ本来の恐ろしさ、破壊劇をしっかりと描いてくれた、本当に待ちに待ったゴジラであった。
『シン・ゴジラ』でもその傾向はあったが、シンゴジラはさまざまな思惑が絡んでおり、ゴジラの名を冠した神のような生物であった。たいして『ゴジラ-1.0』は本当にただの純粋な化け物にちかい。それこそ怪獣である。
特攻隊を絡めた人間ドラマ、核に対する皮肉、初代へのオマージュなどもしっかりと散りばめられ、そうした部分も上手くできていたけれど、それ抜きにしても、ゴジラの描き方として心に刺さるものがあった。
少し思い出補整のようなものも入っているのだろうが、ただ容赦なく銀座を破壊するゴジラ、背後にはあの音楽、その姿を見ていたら、なにか心の中から込みあげるものがあり少し涙が出てきた。もちろんストーリーの流れ的にゴいちジラに対しての怒りや敵意もいち視聴者として抱いているわけだが、それ以上に「これはどうしようもないことなんだ」「もう笑うしかない」「これがゴジラだ」「やっと描いてくれた」というよくわからない涙だ。
そして背びれが青くなり、ついに放射熱線。今回はどんなエフェクトになるのかと思っていれば、もはや熱線ですらなく核そのものだった。もちろん核は肯定できるものではない。だけど、そのあまりの威力に、これまた怒りや悲しみではなく、「ああゴジラだ」「これこそゴジラなんだ」と唖然するしかなった。
そういう手に負えない、口をポカーンと開けてみるしかできない、ゴジラという驚異を惜しみなく描いた作品だった。過去シリーズはすべてみてきたが、ゴジラの描き方としては正直No1のように思える。
『ゴジラ-1.0』のゴジラは悪だったのか?
ゴジラ作品は不思議なもので、「ゴジラは本当に悪だったのか」「ゴジラがかわいそう」という感情が毎回出てくる。今回の『ゴジラ-1.0』でもやはり感じた。水圧で苦しめられたり、口の中で大爆発なんか起こされるゴジラをみて、「やっつけろ」という感情と同時に「かわいそう」が出てくる。これがこの怪獣の不思議なところである。
今回のゴジラは劇中をみるかぎり、先に攻撃してるのは人間のように感じた。大戸島でも徘徊するゴジラに対し先に射撃をしたのは日本兵であったし、海上や銀座で放射熱線を吐いてるのも、戦車の砲弾などで先に人間が攻撃した後だ。まああの木造船の片方を食った時はゴジラが先のようだったが。
もちろん、人を食いちぎったり、つぶしたり、核級の爆発で吹き飛ばすようなことは、決して許されることではなく、悪といえば悪なのかもしれない。
ただ、私たち人間も、道を歩けば足元の小さい虫を意図せずとも潰してしまうこともあるだろう。蚊に刺されれば、ふざけんなといわんばかりに思いっきり叩き潰すこともあるだろう。ゴジラもそのようにただ当然の行動をしていただけなのかもしれない。身体が化け物であるがゆえに被害は甚大だが。
もし私たちも、核による被ばくで、放射熱線を吐けるミュータントのようになったらどうなるのだろうか。蚊に刺されたり、もしくは怒ったときに、口から火がでてしまい、周囲が焼け野原になる。それは周りからみれば悪として非難されるかもしれないが、果たして悪いのは自分だけなのだろうか。
毎回ゴジラをみるとそのような、本当に悪いのは誰なのだろうかいう感情が沸き、ゴジラがかわいそうという感情が出てくる。それもまた、半世紀以上にわたりゴジラが人を惹きつける部分なのかもしれない。
まとめ
以上、「ゴジラ-1.0」の感想評価レビューとなります。
絵に描いたようなべた褒めレビューになりましたが、この作品はひとつの完成形なのではないかと。もちろんああだったらよかった、こうだったらよかったを言うことはできますが、それを言い出したらキリがありません。単純にゴジラをみにいってゴジラがしっかりと暴れ恐ろしかった、そして少し高揚するものもあった。そんな映画でした。それがゴジラ映画なのではないかと。
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